方法論懇話会では、各クールの報告・討論の成果を、会誌『GYRATIV@』(ISSN 1345-7276、B5判、100ページ弱、頒価1000円前後)として刊行しております。刊行部数が大変少量のため、頒布は原則として、会員の方にのみ行っております。ご希望の方は、「information」ページの入会案内をご参照ください。 創刊の辞本誌を手に取られた多くの方々にとって、おそらく、聞き慣れない言葉ではなかろうか。この言葉は、〈転回するもの〉〈転回すること〉といった意味を持つ中世ラテン語である。我々は、方法論懇話会年報の創刊にあたり、この言葉を誌名として選んだ。ことさらに奇をてらったつもりはない。理由をあげるとすれば、この言葉が内包する〈転回〉という意味に、我々自身の学問研究(歴史を扱う人文・社会科学)に対する思いの一端を見たからにほかならない。 現在、内外の歴史研究をめぐる状況は大きな変動を見せている。これは、ひとり歴史研究に限ったことではなく、人文・社会科学全体も等しく同じ状況に直面しているといえよう。これらの背景としては、世界的規模で進行する現実の社会の変容があることは言をまたない。これにより、ヨーロッパ近代を普遍的モデルとして形成されてきた知の体系は根底から揺さぶられざるをえず、〈パラダイム・シフト〉ともいいうる、知的営為すべてにわたる一大転換が広がりつつある。この変化は多方面に影響を与えているが、歴史研究の分野においては方法と対象の多様化をもたらし、従来暗黙の前提とされてきたグランド・セオリーを崩壊へと導いた。〈新しい歴史学〉の台頭は、かかる傾向の典型といっていい。ここにおいて、歴史はあらためて、個々の研究者のもとへ投げ返されることとなったのである。 ひるがえって、現在日本の歴史研究はいかなる状況を呈しているであろうか。研究分野の個別細分化は一層その度合いを増し、いわゆる実証主義歴史学と科学的(マルクス主義)歴史学の間にも、依然として深い溝が横たわっているように見受けられる。 日本における〈新しい歴史学〉の象徴〈社会史〉も、一時の〈ブーム〉として一括され、次第に勢いを失いつつある。 閉鎖的な縮小再生産を続ける学問界にあって、時代的要請と世界的状況に即応しうる研究を実践するには、どうすべきなのだろうか。 この問いから目を背けることは、歴史研究の自己否定に繋がろう。我々は、これら研究者を束縛する諸問題、そして研究者自身のうちにある恣意性・政治性に目をつむることなく、研究をつづけていきたいと願う。それにあたっては、それぞれの学問の原点となる〈問題意識〉、それを支える〈方法〉、その具体的な表現形態である〈叙述〉の三点に自覚的でなければならない。「言うは易く、行うは難し」。その実践には、研究者自身が、自らの知的営為を絶えず厳しく問い直していくことが求められるであろう。 1998年、〈方法論懇話会〉は、我々自身の歴史認識を〈転回〉させるためのささやかな起点として結成された。毎月の例会には、歴史学・国文学・考古学・地理学・人類学・社会学・宗教学などの諸分野から若手の研究者が集い、問題意識・方法・叙述を根幹とするテーマに沿って、活発な議論が展開されている。今ここに、年報『GYRATIV@(ジラティーヴァ)』の創刊をもって、成果の一端を発表したい。もちろん充分なものとはいえないが、本誌がこの閉塞的状況を〈転回〉させる一つの手がかりにでもなりえたら、これに勝る悦びはない。(創刊号より) バック・ナンバー:目次・論文要旨
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